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女子大生のお仕置きを『ワンダーウーマン』で描いたマーストン教授【イニシエーションとスパンキング#3】
ちょっとBDSM関連の理論が入ってくるので、私も参戦しますね
さんくす。てなわけで、今回は海外担当吉川、BDSM担当ちーちゃん、そして、いる意味がないけどそのまま残ってる、ちかさんの3人でお送りします
ガヤよ、ガヤ、意味あるわよ
初見時に度肝を抜いた「とある映画」のパドリング
2017年。
とある映画の中に突如ソロリティのパドリングシーンが現れます。(ソロリティについては Part.2 を参照)これですね。
『ワンダー・ウーマンとマーストン教授の秘密』, 2017 (日本劇場未公開)
※劇場未公開ですが、DVDや配信では普通に日本語版で見られます
主人公のマーストン、のちの『ワンダーウーマン』の原作者が教授を務める大学のとあるソロリティ。
彼は研究調査のため、彼の助手の学生であるオリーヴが所属するソロリティに潜入し、儀式を盗み見ます。そこには赤ちゃんの格好をした下級生と、その子のお尻をパドルでペンペンと叩いてお仕置きする、オリーヴの姿が……。
『ワンダー・ウーマンとマーストン教授の秘密』は、ワンダーウーマンの原作者であるウィリアム・マーストンやその妻、そしてワンダーウーマンのモデルになった愛人オリーヴに焦点を当てた作品です。(ドキュメンタリーではなく、史実を基にした創作映画)
それまで、アメコミとか全然読んだことがなかった管理人は、この映画で『ワンダーウーマン』とスパンキングの一大関係を知ることになります。
では、まずはそこから話を始めていきましょう。
『ワンダーウーマン』とスパンキング
さて、ワンダーウーマン。
名前や見た目はご存じな方も多いかもしれませんが、どんな作品かを知っている方は少ないかもしれません。(普通に皆さんご存じでしたら、ごめんなさい)
ワンダーウーマンは1941年に生まれたアメリカのコミックス、DCの作品です。年を見ると結構古いですね。戦前じゃん
日本だと映画とかはともかく、原作のコミック自体はアメコミファン以外にはあまり読まれないイメージ
特に、最近のものではなく、今回取り上げるマーストンが直接原作を作成した初期シリーズは、ぱっと見、日本語版も存在しなさそうで
管理人もこのページを書くにあたり、初めて読んでみましたが、時代背景的なこともあり、ワンダーウーマンは敵である日本兵と戦ったりもしていました。
この『ワンダーウーマン』と言う作品、ヒロインのワンダーウーマンを含めた女性たちが、敵に縛られたり、奴隷にされたりするのが、毎話のお決まりのようになっています。
とりあえず、テンプレのごとく毎回縛られています。どうせ勝つくせに、わざと縛られてるんだろう、と思うくらい縛られてます。縄などで縛られるだけではなく、鉄の枷や鎖で拘束されたり、色々なパターンがあります。
ワンダーウーマンは手首を拘束されると力をなくすという設定があるんです
この描写とか設定とか、諸々も含めて、これは女性の束縛だ、いやむしろ力強い解放だ、とか当時から今に至るまで様々な人が自分の都合に合わせて理由付けをした結果、上げられたり下げられたり、賞をもらったり取り消されたりで、なんかもうよくわからんです。でも率直な感想を言います。原作を全巻 Kindleで買って読んで思ったのは、ふつうに縛られまくっててエロい。
映画『ワンダー・ウーマンとマーストン教授の秘密』の冒頭、マーストン教授は審問会議みたいな場で、PTA会長みたいな人に、
女性を縛りプレイするシーンが多すぎて、まるでエロ漫画ザマス。教育上よくないザマス。どういうおつもりなんザマしょう?
みたいに詰問されています。
そしてしっかりと映画でもコミックの中の「スパンキングシーン」が槍玉に玉に挙げられています。
事実、ワンダーウーマンの作中のスパンキングシーン(基本、 */F)は、バラエティに富んでいます。もう、わざわざ全部読んだのでリストアップもしていますよ。
- 敵との戦いで尻を打たれる/打つ
- イニシエーションの振りしたパドリング
- 下級生への罰の尻叩きシーン
- 敵の女の子を懲らしめOTK
- 赤ちゃんの立場にされお仕置き
- アマゾネスが初見のテニスラケットをお尻叩き道具と勘違い
- なんか、ただのいじめ
など、など。
こちら、戦いの最中に敵に尻を打たれ、なぜか子供のころの母親からのお仕置きを思い出して、敵への反撃を心に誓う、謎のスパンキングシーン。
『Wonder Woman: The Golden Age Vol.1』p247, 2018, William Moulton Marston
“パドルが振り下ろされ、ワンダーウーマンは子供時代と母の力強い右手を思い出した! 「痛っ! 嵌められた私の自業自得ではあるけど、私のお尻は男になんか叩かせないわ」”
つまり、私をペンペンできるのはママ(もしくは女性)だけっていう意図でしょうか。思いっきり戦闘中なのに子供のころのママのお仕置きを思い出すのはなかなかですが……
いずれにせよこのシーン、ただ敵がワンダーウーマンをぶん殴っただけというシーンじゃないことは分かるでしょう。作画者のヘンリー・ピーターに、かなり細かく指示を入れています。
マーストンはピーターに対して、ワンダーウーマンがどのように殴られるところを描くべきを説明した。「顔は伏せたまま横たわった姿勢のワンダーウーマンのクローズアップ。彼女の尻は棒で叩かれている。他のマルスの部下はこのコマには描かれず、尻叩き人だけがいる。尻叩き棒が振り下ろされるところを、動線と星を書き込んで見せること、云々」(ピーターは指示に従ったが、星だけは省略した)
『ワンダーウーマンの秘密の歴史』p. 327, ジル・ルポール(青土社、2019)
大学教授でもある原作者のマーストンは、セリフや地の文を含めて、明確に何か考えを持って、言葉やスパシーンを入れているわけです。
マーストン教授は「原作者」であってマンガ家ではなく、絵を描いているのは別の人です
マーストン先生、DICS理論の研究のためソロリティの儀式に潜入
ちょっとずつ話をワンダーウーマンからイニシエーションに戻していきましょう。
DICS理論
タフツ大学に勤めるマーストンは、心理学者として「DICS理論」というものを提唱していました。以下の単語の頭文字を取ったものです。
- 支配(Dominance)
- 誘導(Inducement)
- 従順(Compliance)
- 服従(Submission)
人間にはこの4つの基本的な感情があるというもので、マーストンはこのDICSを「他者を征服する」、つまり、自分より弱い立場の者に対して肉体的であれ精神的であれサディスティックな態度を取る、という観点から研究を進めていました。
『ワンダー・ウーマンとマーストン教授の秘密』中でも、ほんのちょっとだけこのあたりも触れているのです。もし興味があれば見てみてください
ちなみにDISCのDとSは、BDSMのDとSと同じですね
BDSMという単語の解説はこちら↓
マーストンは、強制支配する(Dominace)と強制服従する(Submission)の間に、無理強いではなく誘導する(Inducement)、自発的に従う(Compliance)というレベルを置いたわけですね
ベイビーパーティー
さて当時、学生のオリーヴという女子学生が、助手としてマーストンの研究を手伝ってくれていました。彼女は外ならぬ、ワンダーウーマンのモデルとなった女性であり、なんかクールでサバっとしているマーストンの妻、公認の愛人となっていきます。
なんじゃそりゃ。
オリーヴは、その調査の一環として、マーストンを学内の女子学生ソロリティ「アルファ・オミクロン・パイ(αοπ)」で行われる「ベイビーパーティ」に連れて行ったのです。
「ベイビーパーティ」と呼ばれたそのイニシエーションでは、新入生の女子学生たちはおむつ等、赤ちゃんの格好をさせられます。そして目隠し、両手を拘束された状態で別の部屋に連れ去られ、そこで3年生、4年生の先輩から様々な試練を受けることになります。2年生は、棒を持って、新入生の尻を叩いてお仕置きをする役目です。
前回取り上げた『21 Jump Street』作中のヘイジングと、わりと同じような感じですね
現実世界でも一般的なやり方だったのでしょう。
このマーストンのソロリティ取材調査が、映画では、冒頭で取り上げたワンシーンとなっています。もともとはDICS理論のための調査として行ったものですが、このあたりの内容がワンダーウーマンのコミックに大きく反映されています。
『Sensation Comics (1942-1952) #43 (English Edition)』p.4-5, William Marston, (DC, 1945)
ベイビーウィークの最中にもかかわらず、キャンパス内で哺乳瓶を持っていなかったをところを目撃され、お仕置きを受けるために連行されるプレッジ(新規入会希望者、詳しくは Part.2 を参照)の新入生たち。
(3コマ目)
“いや、こんなのパドルよりひどわ!”
“わ、私、お尻叩きなら大丈夫だけど、お化け屋敷は怖くて無理!”
お、思ったより、取材した儀式そのまんま描いてるのね……
潜入したのが「アルファ・オミクロン・パイ」じゃなくてフリーメイソンの儀式だったら、秘密流出で抹消されそうですな
当の女子学生達はイニシエーションをどう思っているのか
上級生が感じている「しごき」による快感の解明
現実世界のマーストンはその後、ソロリティの女子学生に対して、助手のオリーヴと共にインタビューをしていきます。
そして彼は、ベイビーパーティーの最中には上級生たちはお仕置きを与えることで快感を得ており、また、反抗的だったり、逃れようとしたりする新入生に対して、さらに追加のしごきや罰を与えて従属(Compliance)するよう誘導(Inducement)することは、快感をより大きく増幅させている、という結論にたどり着いています。
と書くと、カルト集団みたいに見えますが……
もうちょっと簡単に言うと、絶対的な弱者いびりというより、ソロリティ入会希望の新入生に対して、
「おうおう、うちらの仲間になりたいんだろ? じゃあこの試練を乗り越えられるかな? ちなみにうちらは去年乗り越えたんだぜ」
という、相対的に有利なポジションにいることを「楽しんで」いる状況なわけですね。特に、自分たちも乗り越えている、というのが良くも悪くも重要
少年マンガの、試練を与えて導く仙人ポジションに自分を置いて、優越感に浸っているかんじですかね
別に褒められたことではないにしても、まあ気持ちは分かります。
女子学生への「しごき」に関するアンケート結果は……
マーストンの、ベイビーパーティに関する女子学生への聞き取り調査結果は以下のようなものでした。
(彼の著書には30人記載されていますが、長いので前半15人のみ)
ベイビーパーティについての
女子学生へのヒアリング結果
学生 | 新入生の時、パーティが 楽しかったか(10点満点) | 上級生に支配される のを楽しんだか | 下級生を服従させる のは楽しいか | 不幸せなマスター? 幸せなスレーブ? |
---|---|---|---|---|
1 | 10 | はい | とてもそう | マスター |
2 | 1 | いいえ | 全く違う | マスター |
3 | 1 | はい | 楽しい | くだらないけどスレーブ |
4 | – | 上級生と仲が 良ければ | はい | – |
5 | 9 | はい | はい | – |
6 | – | いいえ | 不愉快な必要悪 | マスター |
7 | 6 | 気にしなかった | はい | – |
8 | – | 上級生を 気にしてなかった | いいえ | マスター |
9 | – | 彼女たちの優越を 実感した | はい | マスター |
10 | 9 | 気にしなかった | はい | マスター |
11 | 4 | 嫌だ | はい | スレーブ |
12 | 6 | 良かった | 無意味 | スレーブ |
13 | 5 | はい | はい | スレーブ |
14 | 9 | 気にしなかった | 必要なので | スレーブ |
15 | – | 楽しもうとはした | 必要悪 | スレーブ |
いや、すみません、単純になんだか面白いなと思って載せました。じっくり読まなくても大丈夫です。面白いと思った方は読んでいただければ。別にここから一般論や法則を導き出せるわけでもないとは思います。とはいえ、マーストンはこの調査から色々考察をしています。
例えば、8番の女子学生は、「目隠しをされたけど、普通に透けて外が見えたので、全然スリルがなかった」という感想を挙げています。つまり、イニシエーションの儀式が茶番に陥っていたことに対してのネガティブな感想で、マーストンは、そのあたりの冷めた態度が「上級生はどうでもよかった」という彼女のコメントにも表れていると補足しています。
こんな感じで、見ていると意外と面白く思えてきます。
見よ、1番の女子学生の圧倒的陽キャ感
3番の女子学生は、ベイビーパーティは楽しくなかったけど、上級生に支配されるのは楽しかった、という矛盾した回答をしています
最初「ん??」と思ったけど、コメントを見たら「服従させられなかったので面白くなかった」と書かれていてわろた
まさかのM女ここに!
きっと映画のパドリングシーンで、すぐ横で「ずるいなぁ、私もペンペンされたいなぁ」っていう感じのしかめっ面をしている子ですね
それはお仕置きが見ていて痛そうだからだろ!
実は、マーストンはこの聞き取りで、女子学生に対して「支配されるなら女がいい? それとも男がいい?」という、もう完全にBDSMプレイの観点での質問等もしていますが、ちょっと外れた話なので、今回は置いておきます。
しかし、ワンダーウーマンの原作者が、そういう研究をしていた人であり、それを明確に作中に取り入れており、しかも当時からあれこれ批評家たちからあれこれ非難もされていたということを念頭に置くと、ワンダーウーマンそのものがBDSMの体現者みたいに思えてきますね。
最後に、このソロリティのイニシエーションのような、一時的かつ疑似的な支配関係の面白さを描いたワンダーウーマンの名シーンを紹介しましょう。
「Wonder Woman’s Adventure in Grow Down Land」という回で、ワンダーウーマンが「年齢が低ければ低いほど偉い」という国に迷い込む話です。扉絵からワンダーウーマンがOTKされているものだったり、彼女が「育ちすぎ裁判」にかけられた時、柵からでたらお尻ペンペンだと警告されたりという、シリーズ屈指のスパ回です。
Grow Down ってのは、Grow Up (成長する)の反対ですね。って対応する日本語ないんだけど……
『Wonder Woman: The Golden Age Vol.3』p207, 2018, William Moulton Marston
“だが、お前はまだ子供に戻っていない。だから焼き印を押されるのだ!”
“これが私たちの焼き印を押す方法よ。この赤い不満足の印は、お尻ペンペンの痛みが消え去るまで、あんたに残り続けるわ!”
“お子様レディの奴隷でいるのって結構大変ね!”
なにわろてんねんワンダーウーマン
【まとめ】イニシエーションの本質
上記の女子学生の回答にもありますが、マーストンは、支配されることに楽しみを感じるかどうかは、その相手が好きかどうかも影響することに言及しています。当たり前ですが。
それはいわゆる、Dominat/SubmissiveのBDSMプレイに通ずるものがあります。ただし、SMプレイは信頼関係が先にあった上でD/Sの関係を楽しむものです。
一方で、Part.1の秘密結社や大学社交クラブを含め、イニシエーションは、(過度な悪乗りや、いじめとなったりという点はひとまず置いておいて、元々の目的としては)D/Sの関係性を用いることで、新しく信頼関係を作ろう、という全く逆のベクトルなわけです。
そこがまた、面白いところでもあります。
ふと文章を書いていて、『あさ○なぐ』という乃○坂で実写映画化した某女子高生スポーツ漫画を思い出しました。ヒロイン(ドM)は、新入生をアヒル歩きで山頂まで登らせるという部伝統のしごきにあいます。これもイニシエーションです。死にそうになりながら登り切った山頂で、ヒロインたちは新たなメンバーとして迎え入れられる。
そして、話は進み一年後、「運動部特有の理不尽なしごきの負の連鎖!」というド直球なト書きと共に、ヒロインたちは同じ通過儀礼を行う側になるのですが、そこでもひとドラマあり、普通に感動しました。
今日リアルでこの手のことをやるのは中々アレですが、フィクションの一要素としては、イニシエーション、もとい通過儀礼てきなヤツは、きっとまだまだ存在感を放ってくれるのではないでしょうか。
今回、いろんなものを引っ張り出してきて、一体どう締めるつもりなのかと思いましたが、無理やり、まとめに軟着陸させましたね
まあ、イニシエーションのスパンキングは、結構遭遇することが多いけど、それを知らないと「なんでこいつらお尻叩いてんの??」ってなると思います
もし、そういう背景を知らなかった方が、そういうものがあるんだなぁくらいにでも知っていただけたら、特集を組んだかいはあるので
ではまた!
……
まだ終わってない! 私もちょっと出番ほしい!
というわけで、イニシエーションとスパンキング、延長戦のマンガを作りました。続く。