


― マルサス主義的な噂話
― ブルック、再び現る
― 公園での再会
― スパイ活動
― 盗まれた唇
― 恋人の怒り
― 軽率さへの仕置き
― 戦慄の枝鞭
― 加虐への欲望
― 折檻の後で
― 手押し車という体位、及びその他諸々の気晴らし
オークハースト、古き我が家に戻ると、全ての物事は滞りなく整理されていた。ただ、不動産に関わるいくつかの処理案件があり、それには僕自身が目を通す必要があったため、僕は再び田舎貴族としての役目を静かに果たすことになった。
メイドたちの顔ぶれには、少し変化があった。ルーシーは結婚してウィンチェスターに引っ越してしまい、僕がちょっとした気まぐれでお尻ペンペンしたり、セックスする相手をしてくれる女性は、もう身近にはいなくなってしまった。
屋敷には若くてかわいいメイドが2、3人いたが、みんな慎み深い娘たちで、ちょっと声をかけただけで体を許してくれるような子はいなさそうだった。
もちろん、もし僕が本気でその若い処女の一人を落とそうと本気を出せば、口説き落とすことも不可能ではなかっただろう。けれど、そうなれば子どもができる可能性もあったし、そうなった場合には様々な面倒事、そして何よりも世間の噂という厄介な問題を引き起こすに違いなかった。
それにしても、フランシスとの間に一度も子どもを授かっていないことは、ずっと不思議に思っていた。というのも、僕は男としてまだ十分に精力があったし、フランシスもかなりの健康体だ。それに、いかに頻繁に体を重ねても、一滴残らず精液を飲み込んでしまうくらい、彼女は情熱的でエロティックであった。
もちろん、毎回彼女は決まっていつも予防策を講じていた。だが、そうした予防策というのは、必ずしも万全とは限らないものだ。実のところ、僕の経験から言えば、妊娠を確実に防ぐ方法は3つしかない。だが、そのどれもが関係の快楽を台無しにしてしまうんだ。
まず一つ目は「フレンチ・レター(コンドーム)」だが、これは男の快楽を損なう。二つ目は「避妊用ペッサリー」で、これは女の快感を奪ってしまう。三つ目の方法は、射精の瞬間に男が引き抜くというものだが、これは男女どちらにとっても楽しみを台無しにするうえ、健康にもよくない。とはいえ、嬉しいことに、フランシスは僕の庇護下にあった期間中、一度も月のものを逃したことはなかった。
田舎で過ごしているあいだ、僕はたびたびディナーやパーティに出かけた。だが、自宅で夕食を取っているといつも、愛するフランクの明るい笑顔とにぎやかなおしゃべりが恋しくなった。僕はいつもひとりで静かに食卓につきながら、その寂しさをかみしめていた。
僕は、オークハースト滞在中もほぼ毎週彼女に会いに行き、いつも2、3日は別邸に滞在した。そういうときは決まって、あれこれと実に愉快な時間を一緒に過ごしたものだった。
そうして夏は、静かに、そして心地よく過ぎていった。11月になると、僕はフランシスを連れてブライトンへ行き、そこにひと月ほど滞在した。それから彼女をロンドンへ戻し、僕はオークハーストへ向かい、例年通り、親族を招いた大規模なクリスマスの集まりをそこで過ごした。
本当は恋人を連れていけたらよかったのだが、それは到底無理な話だった。親族たちが家に滞在しているあいだは、一日たりとも家を空けることができなかった。だが彼らが皆帰ってしまうと、すぐに僕はロンドンへ向かい、再びフランシスと一緒に別邸で暮らし始めた。彼女は僕が戻ってきたことをとても喜んでくれたし、僕自身も彼女と一緒にいられることが嬉しかった。 こうして僕たちは「夫婦」のような生活を再開し、互いのそばで、いつも幸せで満ち足りた日々を送っていた。
けれど、物事がいつまでも順調に運ぶとは限らない。それが運命だ。
時は流れ、6月。ロンドンの社交シーズンがまさに最盛期を迎えていた頃、ある出来事が起こり、僕はしばらくのあいだひどく困惑することになった。
ある日の午後、フランシスと僕は公園のベンチに腰掛けていた。すると僕の不快感をよそに、かつてニースで僕の妻とあまりに露骨な火遊びをした、あの若者、ブルック氏が、にこやかな顔でこちらに歩いてくるのが見えたのだ。彼はフランシスに帽子を取って挨拶し、僕にも軽く声をかけると、そのまま当然のように空いていた椅子に腰を下ろし、会話に加わってきた。
僕はというと、できる限り冷たく素っ気ない受け答えをし、態度も極力よそよそしくした。だがフランシスのやつはというと、あの時にお尻をキツくペンペンされたことなど完全に忘れてしまったかのように、彼と楽しげに話し、笑っていたのだった。
僕はすぐに会話を切り上げることにし、席を立ってブルックに「それでは」と挨拶をした。するとフランシスも立ち上がり、若者に軽くお辞儀をすると、僕の腕にそっと手を添えてきた。そして僕たちはラトランド門から公園を抜け出し、辻馬車を捕まえて別邸へと戻った。
僕はブルックのことについては何も言わなかった。もう彼と顔を合わせることもないだろうと思ったからだ。その晩はフランシスと家で夕食をとり、ふたりで静かな夜を過ごした。彼女はいつも通りに陽気で、軽やかな様子で、あの若者と再会したことなど、まるで何の影響も受けていないように見えた。
その2、3日後、僕は用事でオークハーストへ戻らねばならなくなった。そこであれこれと立て込んでしまい、10日間ほど足止めを食うことになった。その間、フランシスからは頻繁に手紙が届いた。どの手紙も愛情に満ちていて、いつも最後には「あなたの帰りを心待ちにしています」と書き添えられていた。
ようやくすべての用事が片付き、僕はロンドンへ向けて出発した。その日は出発できるかどうか確信が持てなかったため、フランシスには前もって知らせていなかった。
別邸に着いたのは午後4時ごろだったが、恋人は不在で、使用人によれば「お嬢様はリージェンツ・パークへ散歩に出かけられました」とのことだった。それは特に不思議なことではなかった。フランシスは天気の良い日には、公園で散歩したり読書したりするのが大好きだったのを、僕はよく知っていたからだ。そこで僕は軽く顔を洗い、定番のフロックコートにシルクハットという装いに着替えて、公園へとぶらり出かけてみることにした。彼女がどこかにいるかもしれないと思ったのだ。
その午後は本当に素晴らしかった。明るく晴れわたっていながら、暑すぎることもなく、公園はまさに最高の表情を見せていた。涼やかな風が吹き、空には薄い白雲がふわりふわりと浮かび、陽の光を受けて雪のようにきらめいていた。前の晩に雨が降ったおかげで、木々の葉からは埃がすっかり洗い流されており、まるでロンドンの煤けた空の下ではなく、百マイルも離れた田舎で育ったかのように、青々と瑞々しく輝いていた。芝生も目に鮮やかな緑をたたえ、花々は咲き誇り、小さな池の水面もどこもかしこも澄んでいて、光を反射していた。
公園のある一角に、人目につきにくい東屋があった。そこは、以前フランシスが本を読んでくれるあいだ、僕がよく葉巻をくゆらせて座っていた場所だ。もしかしたら彼女はそこにいるかもしれない、そう思って、僕はその東屋を目指して歩き出した。
その場所は、密生した低木にぐるりと囲まれていて、入口もほとんど見えないほどだった。近づいたとき、中から男女の声が聞こえてきた。僕はフランシスの声を聞き取ったような気がしたが、確信が持てなかったので、そっと東屋の裏手に回り込んだ。そこは特に茂みが深く、僕はその隙間から中の様子を覗いた。
するとそこには、やはりフランシスがいて、隣にはあのブルックがいた。ふたりはベンチに並んで腰掛け、楽しそうに話し、笑い合っていた。そんな人目のない場所で、彼女があの男と一緒にいるのを見て、僕はひどく腹が立った。どう見ても怪しい状況だった。だが、それでもなお、彼女が僕に実際に不貞を働いたとは思いたくなかった。
そのときふと僕の頭をよぎったのは、東屋の中でフランシスが誰かといちゃついているのを、こうして覗き見るのは、これで2度目だという妙な事実だった。僕は低木の陰に身をかがめたまま、じっと様子をうかがい続けた。ふたりの会話には、別にやましい内容はなかった。話題は主に、当時ロンドンで上演されていた芝居やその他の娯楽のことなどで、まったく無邪気なものだった。
だが僕は気づいた。ブルックは頻繁にフランシスを見つめていた。いや、ただの視線ではない。あからさまな色欲のこもった目つきで、頭のてっぺんから足の先まで、舐め回すように目を這わせていたのだ。しかしフランシスは、そんな男のいやらしい視線にはまるで気づいていない様子で、まったく飾らず自然な口調で彼と話していた。やがて彼はこう尋ねた。
「ご主人は今、どこに?」
彼は、フランシスと僕が婚姻関係を結んでいないことを知らないようだ。
「田舎のお屋敷にいるのよ」と彼女は答えた。
ブルックは、その返事が嬉しかったかのように微笑んだ。それからふたりはニースの話を始め、そこで知り合った人々のことなどを語り合った。おそらく彼は、あのホテルでフランシスが自分といちゃついたことを思い出したのだろう。そして彼は、そっと彼女に身を寄せ、手を取った。おそらく、以前にもそうしたことがあったのだろう。彼女はその手を引こうとはしなかった。それが彼を図に乗らせたのだろう。彼は突然、彼女の体に腕を回し、唇に自分の口を押しつけて、長いキスをした。それを彼女は、抵抗することなく受け入れた。
僕は歯ぎしりしながら、低く呪いの言葉を吐いた。だが、彼女がこの先も彼にそれ以上のことを許すのかどうか、見届けようとその場にとどまった。
やがて彼は、彼女の服の中へ手を差し入れようとした。だが、彼の指先が足首に触れた瞬間、彼女はさっと身を引いてその手を振り払った。頬を紅潮させ、怒りに目を輝かせながら、足を踏み鳴らして彼女は叫んだ。
「ちょっと! そんなことするなんて、あなたにそんな権利はないから! よくもそんなことを! キスなんてさせるんじゃなかった! 大嫌い!」
彼は嘲るように笑って言った。
「だったら、なんで俺に会いに来たんだい?」
「ちょっと寂しくて、誰かと話したかっただけよ。まさか、そんな気持ちに付け込もうとするなんて思わなかった。あなたのこと、紳士だと思ってたのに」
そう言って彼女は軽蔑のこもった目で彼を見つめた。そして彼女は勢いよく東屋を飛び出していった。残された男は、なんとも間抜けな顔をして立ち尽くしていた。
僕はほっと胸をなで下ろした。今のところ、ふたりの間に実際に不貞があったわけではなかったのは明らかだった。
それでもやはり、彼女があの男と待ち合わせをしていたことには腹が立ったし、キスまで許したことにはもっと腹が立った。ブルックの鼻の骨でも折ってやりたい衝動に駆られたが、実際に何か重大なことが起きたわけでもないので、わざわざ取っ組み合いの喧嘩をするほどのことでもないと考え直した。
ブルックはベンチに腰を下ろし、葉巻に火をつけて吸い始めた。僕は静かにその場を離れ、大通りに出て、ベンチに腰掛けた。そして、今回の一件についてあれこれと考えを巡らせた。ひどく苛立たしかったし、なによりフランシスへの信頼が少し揺らいでしまったのが、自分でも情けなかった。
僕は30分ほどあれこれと思いを巡らせたあと、別邸へと戻った。そこではフランシスが応接間で僕を待っていた。彼女は僕の姿を見ても、少しも驚かなかった。さっき僕が一度帰ってきていたことを使用人から聞いていたからだ。そして彼女は、自分がブルックと一緒にいるところを僕が見ていたとは露ほども思っていない様子だった。にこやかな笑顔で僕のほうへ駆け寄ってきて、こう叫んだ。
「チャーリー! 会えて本当に嬉しい。どうして来るって手紙をくれなかったの? そうしたら、お家でちゃんとお迎えできたのに」
そう言いながら、彼女はいつものように唇を差し出してきた。だが僕はその彼女をそっけなく押しのけ、黙ったまま椅子に腰を下ろした。
彼女の笑顔はすっと消え、その目には物言いたげな表情が浮かんでいた。
「どうしたの、チャーリー? どうしてキスしてくれないの?」と、彼女は不安そうな口調で尋ねた。
「どうしてキスしないかって?」と僕は苦々しく繰り返した。「他の男のキスで熱くなった唇に、キスしたいなんて思わないからさ」
彼女は完全に面食らった様子で、頬は青ざめ、しばらくのあいだ言葉を失ったまま僕を見つめて立ち尽くしていた。そして椅子に崩れるように腰を下ろすと、両手で顔を覆い、絶望的な様子で泣き始めた。僕は、自分が見たことを彼女に話した。それからこう問いかけた。
「ブルックはどうやって君の居場所を突き止めたんだ? 今までに何度会ってる?」
すると彼女は手を顔から下ろし、すすり泣きながら答えた。
「おととい、リージェンツ・パークで全くの偶然に彼に会って、彼が話しかけてきたの。ちょっと寂しい気分だったから、しばらく一緒に歩きながら話をしたの。別れるときに、今日また会ってくれないかって言われて……彼と話したのは、それも含めてたった2度だけよ」
そして彼女は手を組み、懇願するように言った。
「お願い、チャーリー。そんなに怒らないで。軽率だったのは認めるけど、あなたを裏切るようなことは何もしていないの。信じて。私は今まで一度だってあなたに嘘をついたことなんてない。お願い、許して。あなたがいない間は、私、おしゃべりする相手が全然いないの」
「でも、君にはずっと前に、ブルックとはもう話さないでくれって言ったはずだ。それなのに君は僕のお願いに背いて、あいつと話した。それだけじゃない、一番ひどいのは、君がキスまで許したことだ。何かその気にさせるような態度をとったんじゃないか? でなければ、あいつがあんなことをしようとするはずがない」
「そんな、少しもその気なんて見せてない!」
彼女は涙を頬に流しながら、泣きじゃくった。
「キスを許しちゃったのは確かに私が悪かったけど、悪気は本当になかったの。許して……。彼のことなんて、これっぽっちも好きじゃないの。ねえ、わかってるでしょ? 私が愛してるのは、あなただけ」
そう言って彼女は立ち上がり、僕に近づいて叫んだ。
「ねえ、お願い、キスして……」
僕は彼女の言葉を信じてはいた。けれど、やっぱり怒りは収まらなかったし、僕の不快感を彼女にはっきりと感じさせるつもりだった。だから僕はこう言った。
「キスなんてしない。今、僕は本当に腹が立ってる。今日はクラブで夕食をとるし、帰りも遅くなる。君とは一緒に寝る気もない。だから、予備の部屋にベッドの用意をしておいてくれ」
彼女はしばらくのあいだ、深い悲しみに満ちた目で僕を見つめていたが、次の瞬間、ソファに身を投げ出し、激しく泣き始めた。僕は彼女にそれ以上は声もかけることなく、すぐに家を出てクラブへ向かった。そこで上等な夕食を注文し、まずまずの食欲で平らげ、シャンパンを一本飲んだ。すると気分もずいぶんと落ち着いてきたので、喫煙室へ上がり、葉巻に火をつけながら、頭の中で一連の出来事を整理した。
そして葉巻を吸い終わる頃には、フランシスを許すことに決めていた。結局のところ、あれはほんの些細な過ちに過ぎなかったのだ。
だが、彼女を元通りに受け入れる前に、きついお灸を据えるつもりだった。翌日、彼女にはしっかりとしたバーチの洗礼を受けてもらおう、そう心に決めたのだった。 モードのお尻を叩くのに使ったあのバーチは、まだ別邸の寝室のタンスの中にしまってあった。
心の中でやるべきことを決めた僕は、そのあと劇場へ出かけ、終演後に軽く食事を取り、最終的に別邸へ戻ったのは午前1時頃だった。自分の鍵で静かに中へ入り、用意されていた予備の部屋に上がって、そこで眠りについた。部屋の中は快適に整えられていた。
翌朝、僕が朝食をとるために階下へ降りると、フランシスはすでに部屋にいて、青ざめた顔で、ひどく沈んだ様子だった。僕は冷たい口調で「おはよう」とだけ言い、席について朝食をとり始めた。彼女は僕のコーヒーを注ぎながら、時おり懇願するような目でこちらを見た。僕は、彼女がほとんど何も食べていないことにも気づいた。
朝食を終えて葉巻を一本吸い、それから応接間へ移動し、ゆったりと肘掛け椅子に腰かけて、朝刊を初めから終わりまで読んだ。そのあと手紙を何通か書き、それらを投函しに外出した。その足でリージェンツ・パークをぶらぶらと歩き回り、昼食の時間になるまで時間をつぶした。
昼食のあとは、フランシスにバーチをくれてやるつもりだった。
昼食のあいだ、僕は彼女にひと言も声をかけなかった。彼女は涙をこらえようと必死なのが見て取れた。そして、できるだけ早く席を立ち、部屋を出ていった。僕は葉巻に火をつけ、ゆっくりと煙をくゆらせながら、吸い終わったらフランシスを呼び出して、彼女の運命を告げようと考えていた。
だが、葉巻を半分も吸わないうちに、彼女が部屋に入ってきた。そして僕のもとへまっすぐに歩み寄り、涙を浮かべた目で哀れっぽく僕を見つめながら、こう言った。
「ねえ、チャーリー…… もう辛くてたまらないの。こんなにみじめに過ごすなんて無理…… 許してほしい。どんなお仕置きでも受ける。お尻ペンペンでも、厳しい鞭でも。好きなようにして…… だから、お願い、許して……」
彼女の言葉を聞いて、僕は嬉しくなった。自分から進んで罰を受けようと申し出たことは、彼女が今でも本当に僕を愛している証だと思えた。もっとも、たとえ彼女が自分からお仕置きを願い出なかったとしても、僕は鞭打つつもりだった。
僕はただこう言った。
「確かにきつい折檻がふさわしいな。バーチでの尻叩きがいい。だが、お仕置きが終わったらキスをして、この件にはもう触れないことにしよう」
彼女は少しだけほっとしたような表情を見せたが、それからおずおずとこう言った。
「ねえ、できればバーチじゃなくて、平手のお尻ペンペンじゃだめ……? あの枝鞭だけは本当に怖くて……」
「バーチだ」と、僕はきっぱりと言った。
彼女は小さく身を震わせたが、それ以上は何も言わなかった。それから僕は続けた。
「さあ、2階へ行って、お仕置きの準備をしなさい。下着はすべて身につけたままでいいが、ドレスとコルセットは脱いで、ゆったりしたローブに着替えておきなさい。呼ぶまで自分の部屋で待っていること。そして下降りてくるときには、タンスの中のバーチを持ってくるように」
彼女は一言も発さずに部屋を出ていき、僕は自分の準備を始めた。僕はソファを部屋の中央に移動させ、彼女の手首と足首を固定するためのストラップを四本用意した。今回は厳しく鞭打つつもりだったのだ。
ふと、彼女が悲鳴を上げて使用人たちに聞こえてしまうかもしれない、という考えが頭をよぎった。そこで僕は2人の使用人を呼び、すぐに外出する準備をするように伝えた。2人は驚いた様子を見せたが、僕は彼女たちを町のあちこちにある店へ、ちょっとした買い物を頼んで送り出した。その用事をこなすのには1時間以上はかかるはずだったので、彼女たちが戻ってくる頃には、すべてが終わっているだろうと思った。
すべての準備が整い、僕は椅子に腰を下ろし、始める前にほんの1、2分だけ待つことにした。これから行うことが、僕にとって何よりの喜びをもたらすと分かっていたからだ。そのことを思い浮かべるだけで、僕は想像の中でうっとりと浸っていた。フランシスのお尻に鞭を振るうのは、あの日、彼女が少年にお尻ペンペンをした日以来だった。
この物語を読む一部の読者には、僕が、自分を愛してくれている、そして僕自身も好意を抱いている女の子を、屈辱的で苦痛を伴う方法で鞭打つことを、これほど楽しみにしていたというのは、奇妙で不自然に思えるかもしれない。けれども、もしあなたが「鞭の愛好者」であれば、そのときに僕を支配していた感情を、たやすく理解し、共感してくれることだろう。
あらゆる人間は、男であれ女であれ、その中に多かれ少なかれ「加虐への欲望」が存在しており、それは人によってさまざまな形で現れる。そして「鞭の愛好者」は、相手をさまざまな方法で鞭打つことによって、その苦痛を与えることに快感を覚えるのだ。だが、自分の手で身体的なお仕置きを受けている女性が身をよじらせ、涙を流して苦しむのを見ることに快感を覚える男であっても、それ以外の点では思いやりに満ちた心優しい人物であることは少なくない。
奇妙ではあるだろう。しかし、確かな事実として、お仕置き嗜好をを持つ男が、裸の女性の尻を実際に鞭打っているその時、彼の心は唯一つのもの、即ち強烈な性的快感に捕らわれているるのである。
さて、話を続けよう。
僕は上階のフランシスに降りてくるよう伝えた。
すると数分も経たないうちに、彼女は部屋に入ってきた。手にはバーチを持っており、それを僕に差し出すと、何も言わずにおとなしく次の指示を待って立っていた。
彼女はとても美しかったが、頬は青ざめており、大きな青い瞳には怯えたような表情が浮かんでいた。しなやかな頭の後ろには、長い金髪が艶やかな巻き髪になってまとめられ、白い額には柔らかく小さなカールがふんわりとかかっていた。彼女はゆったりとしたピンクのシルクのガウンを身にまとっていて、それは肩から小さな足元まで、彼女のしなやかな体をまっすぐに優雅に包んでいた。足元には、繊細なフランス製のハイヒールが上品に履かれていた。
僕はストラップを手に取り、彼女にお仕置きを受ける体勢をとるよう命じた。彼女はストラップを目にした瞬間、目に涙を浮かべた。僕がそれを取り出したということは、本気で厳しく鞭打つつもりなのだと察したのだろう。それでも彼女は、抗議の言葉も視線も一切向けず、腕をまっすぐに伸ばしたまま、黙って身を横たえた。
僕はすぐにストラップで彼女の手首と足首をソファーの脚に固定した。だが、彼女の胴体は固定しなかった。だから、バーチの痛みに耐えながら、彼女がお尻をくねらせる余地はたっぷり残されていた。フランス人はこの動きを「ラ・ダーム・ド・ラ・クループ(la dame de la croupe、お尻の貴婦人)」と呼ぶ。
それから彼女のガウンの裾を肩のあたりまでまくり上げ、かわいらしいレース飾りの白いペチコートをめくり、淡い青色のシュミーズも巻き上げた。彼女のドロワーズも淡い青の絹でできており、通常のように後ろに切れ目はなく、両脇にボタンが付いていた。美しい脚は濃紺のシルクのストッキングに包まれており、太ももの真ん中でピンクのサテンのガーターによって留められていた。
私はそのドロワーズのボタンを外し、繊細な衣服を引き下ろして、彼女の見事な白いお尻をあらわにした。そのときの尻はこれまでになく美しく見えた。上は雪のように白い衣服のひだに縁取られ、下はレース飾りのついた青い絹のドロワーズに囲まれたまま、上向きにさらされていた。
それをうっとりと見つめながら、僕のペニスは硬直していた。同時に、あの可愛らしいお尻は、バーチの痛烈なキスよりも、恋人の優しいキスを受けるのにふさわしいのではないか、と思ってしまっていた。
それから私は、滑らかで冷たい雪のように白い肌の上に、何度も手を滑らせた。だが、私は少しも良心の呵責を感じなかった。この後すぐに自分の与える鞭で燃えるように赤くなり、ざらつき、熱を帯びるであろう。そしてバーチを手に取ると、それを空中でヒュッと鳴らしながら言った。
「さあフランシス、お仕置きの時間だ」
彼女は身を震わせ、丸く形の良いお尻のほっぺたをきゅっと引き締めたので、ふっくらとした双丘のあいだの割れ目が締まって細い線になった。
「ねえ、チャーリー」彼女は怯えた声で叫んだ。「あんまり厳しくしないでね……」
僕はバーチを彼女の広い尻に振り下ろし、引き切るようにして打ちつけた。すると繊細で白い肌にはたちまち幾筋もの赤い線が刻まれた。彼女は激しく身をすくめ、肉体が震え、かすかな喘ぎ声を漏らして、顔をソファのクッションに埋めた。
何度も、何度も、そしてさらに何度も、僕はしなやかに鞭を彼女のすくむお尻に振り下ろした。そのたびに赤みを増し、また、白樺の枝についている硬い芽によって濃い赤の斑点が散らばっていった。彼女は頭をビクッと後ろに反らし、そのせいで長い髪がほどけてしまい、哀れっぽくうめき声を漏らした。
僕はゆっくりと彼女を打ち続け、それぞれの一撃を異なる場所に与えた。震える肌のあちこちに、長く濃い赤のミミズ腫れが浮かび上がり、ついに彼女は痛みに悲鳴を上げ始めた。
「加虐への欲望」の支配下に置かれた僕は、フランシスの悲鳴など気にも留めず、バーチを振り下ろし続けた。彼女は縛められた範囲で左右に身をよじり、ときには腰を反らせ、ときには体をソファにぴったり押しつけるようにして、バーチの鋭い一撃から逃れようと必死にもがいたが、すべては無駄だった。彼女は頭をひねって肩越しにこちらを見つめた。恐怖に見開かれた瞳には懇願の色が浮かび、ほどけた髪の巻きが、苦痛に歪んだその顔を部分的に覆っていた。頬は真っ赤に染まり、涙が止めどなく流れ落ち、唇は苦悶に震えていた。
「ひい、やめて! やめてぇ!」
彼女は悲鳴の合間に息を切らしながら叫んだ。
「もうムリ! やだっ!耐えられない!お願い……お願い、許してぇ……!ああっ、お尻がバラバラになっちゃう……ああっ!あああっ!! やあああああっ!!!」
僕は一瞬、手を止めた。これまでは彼女の左側から打っていたが、今度はソファの反対側へ回り、右から鞭を振るうことにした。お尻の両方のほっぺが、均等にお仕置きを受けるようにするためだった。
彼女は鞭打ちが終わったと勘違いしたが、それは間違いだったのだ。僕が再び鞭を振り上げるのを見たとたん、彼女は恐怖に満ちた長いうめき声をあげ、哀れな声でこれ以上打たないでと必死に懇願した。僕は再び、鞭で彼女の腫れ上がって、真っ赤になったお尻を打ち始めた。
僕は手を止め、鞭を無造作に置くと、少女のお尻を確認した。腰から太ももにかけての全体が、青黒い腫れ痕の網の目のように覆われ、紫色の点々が一面に広がっていた。皮膚が裂けた箇所には、それぞれの臀部に数滴の血がにじんでいた。
僕はそれほど強く鞭打ったわけではなかった。しかし、彼女の肌は非常に繊細だったため、鞭によってたやすく裂けてしまったのだ。彼女はひどい痛みを味わっているだろう。実際、彼女は半ば気を失ったような状態だった。額には冷たい汗がにじみ、顔は青ざめ、目を閉じていた。
僕はできるだけ素早く彼女の衣服を元に戻し、手首と足首の拘束を解いた。そして、水を一杯持ってきて、彼女の唇を湿らせた。僕のペニスはまだ勃起していて、このまま彼女を抱きたかった。しかし、今この瞬間にそんなことをすれば、完全なる非道となってしまうだろう。僕が非道となるのは、尻叩きに関してのみだ。
僕の彼女に対する感情は一変していた。もはや恋人に対して怒りは感じておらず、彼女に対する深い哀れみの気持ちで満たされていた。彼女は自らの軽率さに対して、あまりにも高い代償を払ったのだった。
私は彼女を腕に抱きしめ、キスをしてなだめながら、気絶したような状態が収まるのを待った。そして、僕が渡した一杯のワインを飲むと、彼女の頬に少しずつ血の気が戻り始めた。
彼女は私を非難するような目で見つめながら、かすれた声で言った。
「ねえっ、どうしてこんなにひどく私のこと叩いたの? そんなに酷いことするなんて思いもしなかった」
それから、少しすすり泣きながらこう続けた。
「もう!お尻がめちゃくちゃ痛い! お尻のお肉がズキズキして、耐えられない!」
「冷やしてあげるよ。すぐにズキズキするのもおさまるさ」と僕は言った。
僕はフランシスを腕に抱き上げて寝室に運び、うつ伏せにベッドに寝かせてあげた。それからもう一度スカートをまくり上げ、ひどく腫れ上がって熱を持ったお尻を冷水で丁寧に拭いて、肌がすっかり冷えるまで冷やした。そのあとでワセリンを塗った。彼女はすっかり疲れきっていて、眠たそうな様子だったので、私は毛布をかけてやり、ブラインドを下ろし、静かに部屋を出た。
僕は居間に降りて、バーチとストラップをキャビネットにしまい、すべてを元どおりに片付けた。ちょうど作業を終えたところで、2人の使用人が買い物から戻ってきた。
午後5時になると、メイドがいつものアフタヌーンティーを運んできた。僕はそのお茶で一息つき、それからフランシスにも一杯持っていった。彼女はぐっすり眠っていた。僕はしばらく彼女を見つめたが、目を覚ます気配はなかったので、ベッド脇の小さなテーブルにティーカップを置いて部屋を出た。
僕たちの夕食は7時半だったので、まだ2時間ほど時間があった。けれど、外出する気にはなれなかったので、居間の安楽椅子に腰を下ろし、本を手に取ってゆったりと時間を過ごした。やがてメイドが夕食の準備が整ったと知らせに来るまで、快適に時を過ごしていた。夕食のためにフランシスが降りてくるとは思っていなかったので、スープとワインを部屋に運ばせようとしていたところ、彼女が自分で部屋に入ってきた。
彼女はかわいらしいディナードレスを着ていて、髪もきちんと整えられていた。しかし、頬はやや青ざめ、目の輝きもいつもほどではなく、まぶたは赤くなっていた。そして椅子に腰を下ろすときには、とても慎重に座り、お尻が椅子に触れた瞬間に小さく顔をしかめた。「ひゃ、もう……」と彼女は憂鬱そうに言った。
「すごくひりひりする。それに、新しいシュミーズに着替えなきゃならなかったの。前のは血がついちゃってて」
僕は彼女にシャンパンを一杯渡し、陽気に話しかけて、また自分の恋人になったな、と伝えた。
それで彼女は少し元気を取り戻したようだった。夕食を食べ始め、デザートが出る頃には、話し始めたり、少し笑ったりもしていた。あれほど厳しく鞭打ったことに対して、僕に対して少しもふてくされた様子や怒った様子は見せなかった。
しかし、私は彼女の素直な性格をよく知っていたので、彼女が何を考えているか大体見当がついていた。彼女はきっとこう自分に言い聞かせるだろう。自分はお仕置きを受けて当然の過ちを犯した、その報いは受けた、そして僕はその過ちを許した。だから、すべては丸く収まった、と。
夕食のあと、僕たちはコーヒーを飲みに居間へ移り、彼女はソファに横になりながら、しばらく僕が本を読むのを聞いていた。そのあと少しだけ会話を交わし、10時半になると2人で寝室へ向かった。フランシスは、体をこわばらせるようにぎこちなく歩いていた。私たちがベッドに入ったとき、彼女は横向きになって私にぴったりと身を寄せ、私は彼女のやわらかく温かい唇にキスをしながら、愛らしい胸で戯れた。
それから、彼女の寝間着を腰の上までまくり上げ、私はそっと彼女のお尻に手を置いた。そこにはまだ鞭の痕が残っていてざらついており、あまりにも敏感で、私の指が軽く触れただけで彼女は身をすくめた。「ひゃ、触らないで!」と彼女は叫んだ。私は手を引っ込めたが、自分のペニスを彼女の腹にこすりつけながら言った。
「これから、やれたりしない?」
「無理っ」と彼女は答えた。「お尻がめちゃくちゃ痛くて、少し触れられるだけでも我慢できないの。それに、横向きで向かい合ったままするのは、うまくいかないでしょ」
正直僕のペニスははちきれそうだったので、どうにかしたいところだった。しかし、どうすれば彼女のお尻を一切触ることなく、セックスできるだろうか。
それから僕は「手押し車」の体位を思い出した。あれは女性に挿入するのはやっかいな体勢なので、僕の好みではない。だから、他の様々な変わった体位でフランシスを抱いたことはあっても、その体位だけは彼女に教えたことがなかったのだ。
しかし、僕は今回はあえてそうしてみようと決めた。
「君のお尻にまったく負担がかからない方法がある。仰向けに寝る必要もないし、お尻に触れたりもしない。でも、その体勢はちょっとやりにくいかも」
「お尻さえ痛くならなければ、どんなやり方でも試してみる」
彼女はためらいもなく言い、同時に僕のペニスをやわらかな手でぎゅっと握った。
「それをするには、ベッドから出なくちゃならないんだ」と僕は言った。
彼女はすぐにベッドから飛び出し、小さく笑いながら「じゃあ、ためそう!」と言った。僕は彼女のあとを追い、夜通し灯しているシェード付きのランプの芯を少し持ち上げた。部屋はすっかり明るくなり、フランシスは白い長いネグリジェ姿でとても魅力的に見えた。レース飾りの裾の下からは可愛らしい素足が覗いていた。
彼女は困惑の表情を浮かべて立っていた。どうやってお尻に触れずに僕が挿入できるのか、不思議に思っているのは明らかだった。
しかし彼女はすぐに理解することとなった。僕は彼女を腕に抱き上げ、逆さまにした。足は宙に浮き、腕を目一杯伸ばして手を床につかせたままの体勢で、彼女の寝間着は頭の上までめくれ上がり、全身がむき出しになった。僕は彼女の脚を僕の首のまわりに回させ、両手で彼女の腰を抱えて腹の上で組むようにして支えた。そのまま、彼女の体重を支え、腕の負担も僕が引き受けた。
こうして彼女の体は斜めの姿勢になり、お尻が一番高くなって、彼女の腰はちょうど僕の腰と同じ高さで密接した。それから、僕はほんの少し膝を曲げて、同時に背中を反らせるようにして、簡単にその「武器」を鞘に押し込んだ。そして腰を前後に動かしながら、彼女を突き始めた。彼女も同じようにして、僕たちは満足のいく、ただし少し窮屈な挿入をした。その間、彼女のお仕置きの痕がある真っ赤なお尻には、一度も触れたり、擦れたりすることはなかった。
すべてが終わったあと、僕は彼女を立たせた。すると彼女は笑いながらこう言った。
「まあ、なんとかなりそうかな。でも、ちょっと体勢がきついかも。頭に血がのぼっちゃうし」
それから僕たちはもう一度ベッドに入り、すぐに眠りについた。
翌朝、起きる前に、彼女をベッドの外でうつ伏せにさせて、寝巻きを肩までまくり上げ、彼女のお尻の状態をじっくりとチェックした。 お尻は酷い状態で、見るからしてとても痛そうだった。実際、痛いだろう。皮膚の裂けた箇所には瘢痕ができており、全体が真っ赤で、鞭の痕もまだはっきりと残っていた。
とはいえ、彼女の肌は健康そのもので、すぐに癒えていくだろう。ただ、現時点では痕は残っており、彼女のかわいらしいお尻が百合のような白さを取り戻すにはしばらく時間がかかりそうだった。
僕たちはベッドを出て、「手押し車」スタイルで挿入を楽しみ、それから服を着て、上機嫌で朝食に向かった。
1週間後、僕はフランシスをブローニュに連れて行き、そこでひと月を過ごした。僕は、水着姿が魅力的な可愛い恋人と、ほぼ毎日のように一緒に海水浴を楽しんだ。というより、水から上がって濡れた髪とバラ色の肌で、まるで美しい海の精のように見えるその姿があまりに僕を刺激してくるせいで、よく海水浴用の小屋の中で挿入していたのだ。
ブローニュを離れると、僕たちはロンドンに戻り、僕は別邸で暮らした。ときどき様子を見に数日間だけオークハーストを訪れることもあった。
ライチョウ猟が始まる時期になると、僕はスコットランドへ向かい、アーガイルシャーの友人のもとで2週間を過ごした。9月はオークハーストでヤマウズラ猟に勤しみ、10月には再びフランシスを連れて、再び海外へ出発した。
第2部 完