『“Frank” and I 』1部第1章: 風変りな出会い【英国スパンキング小説】

― 風変りな出会い。― 海への逃亡。― “フランク”と彼の新しい服。― よきサマリア人。
FrankAndI_ヴィクトリア朝の並木道

― 風変りな出会い。
― 海への逃亡。

― “フランク”と彼の新しい服。
― よきサマリア人。

 20年前のある美しい秋の夕べ、僕はハンプシャーの並木道を疲れた足取りで歩いていた。一日中キジ撃ちを楽しんだ帰り道だった。おいしい夕食が僕を待っていたし、全てに満足していた。今日の成果は素晴らしく、鳥はいっぱい捕れたし、我が犬は忠実だったし、撃ち損ねもほんのわずかだったのだ。

 僕は30歳で独身、未だ独り身だった。男女の使用人何人かと一緒に、もう何世代も家族に受け継がれてきた、バランスの悪い、古い赤レンガの邸宅で暮らしていた。

 もう6時を過ぎ、沈む夕陽がそびえ立つ木々の幹の間から流れ出て、金色の明かりと深い影が、くすんだ白い道の上に、代わりばんこに映し出されていた。夕暮れの静けさは全てを包み込んでいた。静寂を破る音は、姿が見えない鳥のさえずりのみで、目に入る動くものは、100ヤードくらい前をゆっくりと歩いている少年一人だけだった。僕は歩くのが速かったので、すぐに彼に追いついた。追い越そうとしたその時、その子は僕に、今何時かと尋ねてきた。

 僕はそれに答え、歩調を緩め、ちょっとした会話をした。少年は明らかに足が辛そうだったので、僕たちは並んでゆっくり歩いた。

 彼は、最初はそこまで話をしなかったものの、人見知りのようでも、気まずいようでもなかった。道連れを得て、嬉しそうにも見えた。見たところ13歳くらいだろう。華奢な体つきで端正な顔立ち、小さな手足にブロンドの巻き毛、青い目をしていた。ベルト付きのジャケットに、暗い色をしたツイード製ズボン、小ぎれいな紐靴。そして麦わら帽子。だが、彼の服はほぼ新品のようだが、埃だらけで、旅で薄汚れていた。態度は静かで落ち着き払っていたが、教養ある話し方で表現も豊かだった。すべての点において、彼は小さなジェントルマンだった。

「疲れてそうだね」と僕は尋ねた。
「少し疲れています。今日は15マイルも歩いてきたもので」彼は言った。
「君のような子には長い道のりだな。どこに行くんだい?」
「サウサンプトンに行きます。船乗りになるんです」と彼はためらいなく答えた。
「え、何だって?」

 僕は彼の答えに驚いた。なにせ、ここはサウサンプトンから20マイルも離れているのだから。

「歩いていく気じゃないだろうね」と僕はからかい半分で言った。
「歩いていくつもりです。列車に乗るお金がないので」
 彼は少し顔を赤らめた。

 ははあ、これは寄宿学校から逃げ出して来たんだな。だけどまあ、知ったこっちゃない。第一、どこの船長がこんな華奢で繊細そうな少年を船に乗せるというんだ。だからまあ、脱走はすぐに友人たちの知るところとなるだろう。

「何歳なんだい? まだ船員になれるほど屈強には見えないけど」
「もうすぐ15になります。見た目よりは強いですよ」と少年。

 そんなに年上には思えなかった。うん、全くそうは見えない。

「まあ、今夜はこれ以上進めないだろう。どこで食事して、どこで寝るつもりなんだ?」と僕は尋ねた。
「少しお金があります。最初に見つけた飲み屋でパンとチーズでも買おうと思っています。それで昨夜みたいに干し草の中で寝ようかと」と少年は大胆なことを言った。

 僕は笑ってしまったが、同時に彼の心意気に感心した。

「君は学校から逃げてきたんだろう。それを聞いた親御さんが怒ったり心配したりすると思わないのか?」

 彼は僕の顔を見上げ、声を詰まらせながら答えた。

「私には父も母もいません。学校から逃げてきたわけでもありません」
「じゃあ、親戚か友人のところから?」と僕。
「親戚も友人もいません」彼は声を枯らしながら言った。目は突然涙であふれたが、すぐに拭い去った。

「だけど、これまで誰かと住んでいたはずだろ。君のことを色々聞かせてくれよ。心配しないで。別にちょっかいを出すつもりはないんだ。君の決心が固いのなら、何か助けになれるかもしれないし」

 彼はしばらく戸惑っていたが、話を始めた。


 私の父は軍の士官でした。父と母は5年前にインドで亡くなりました。私はロンドンの近くの学校に送られ、6ヶ月前までそこにいました。しかし私に残されたお金が尽きてしまったので、とある人たちによって、学校から引き取られました。その人たちとは一昨日まで一緒に暮らしていました。その方々が誰なのか、どこに住んでいるのかはお聞きにならないでください。
 謝礼もないのになぜ私を預かったのかはわかりませんでしたが、いずれにせよ私が反対する理由はありませんでした。私は、その人たちが学校にやって来て私を引き取るまで、お会いしたことも名前を聞いたこともありませんでした。

 その人たちは、最近まで私に優しくしてくれていたのですが、その人たちが望んだ、とあることを私が拒んだものだから、私に対して酷い扱いをするようになりました。もしその人たちの言う通りにしないのなら、お屋敷から追い出すと。それでも私は拒み続け、数日後に、もうこれ以上家には置いておかない、すぐに出て行けと言われてしまいました。そして2日前、家を離れてポーツマスへ向かう決心をしたんです。そして船に乗るんだ、と。


 あらゆる点において信じられなかったが、少年がためらいなく率直に話したので、僕には本当のことのように感じられた。僕は探るように彼を見つめ、何とかして矛盾を見つけようと問い詰めた。だが、彼は少しも混乱しなかったし、話の中のどんな些細なことも一貫していた。
 彼は丁寧に、ただきっぱりと、一緒に暮らしていた人たちのもとを離れた理由を話すのを拒んだ。明らかに僕に疑われているのはわかっているようで、彼は頭を上げ、顔を赤らめて唇を震わせながらも、堂々と言った。

「嘘はついていません。全部本当のことです。そして間違ったこともしていません」

 包み隠しのない表情とまっすぐな青い瞳は、僕の目を揺らぐことなく見据えていたので、僕自身この話は本当のことなんじゃないかと思い始めてきた。本当のことであれば、なんとも不憫じゃないか。こんなに若く、弱々しく、見るからに優しく育てられた子が、一人世の中に放り出されて生きていかなくてはいけないのだ。

 いずれにせよ、これらの出来事にはいくつか不思議なところがある。なんだか少年に興味がわいてきた。僕はこの子を家に連れて帰って夕食を与え、今晩泊めてあげることに決めた。

「まあ、一緒にうちに来て夕食でも食べないか? 今夜は泊めてあげよう。明日の朝、何がしてあげられることがあるか考えよう」

 少年の悲しげな表情が明るくなり、感謝の表情を僕に向けて、心からの声を上げた。

「本当ですか! ありがとうございます! とっても、とってもご親切な方です!」
「じゃあ決まりだな。先を急ごう。僕の家はもうすぐだよ」

 僕らは足取り軽く歩き出した。少年は打ち解けてくれたようだった。そして、彼の洗礼名はフランシスであること、たった6ペンスしかもっていないこと、昨夜は干し草の中でよく眠れなかったことなどを打ち明けた。


 程なくして、僕らは家の門までたどり着いた。そして、長く曲がりくねった小道を屋敷まで歩いた。少年はその光景に感銘を受けたようで、まるで絵画を鑑賞するような目になった。

「すごい!」彼は叫んだ。「歴史のありそうな素敵なお屋敷! 素晴らしいお庭!」

 少年の無邪気な誉め言葉は嬉しかった。不揃いな切り妻、角のタレット、深く掘り込まれた窓枠、そして家の紋章が彫られた重厚なオークのドア。この古風な家は僕の誇りだ。

 玄関に入ると、執事のウィルソンが猟銃を受け取るために待っていた。彼は優秀な使用人で、どこに行くときも同行してくれる。控えめに言っても気まぐれな僕の扱いにも、よく慣れている。というわけで、この汚き見知らぬ少年を、寝室の一つに連れていき、風呂に入れ、世話をしてやってくれと伝えても、ウィルソンは全く驚かなかった。僕も自分の部屋に行き、風呂に入り、着替え、応接室に行った。すぐに少年もウィルソンに付き添われてやってきた。

 風呂上がりのフランク(僕はすでに心の中でそう呼んでいた)は、生き生きとして綺麗だった。服はブラシをかけられ、靴は磨かれていた。すぐにディナーの準備ができたので、僕らはオーク壁の広い食堂に入り、居心地のよい片隅にある丸テーブルの席に着いた。

 フランクは部屋を見渡し、重苦しくも華麗な調度品や、サイドボードの銀のプレートに感銘を受けたようだった。そしてどうも彼は、我が家の堅苦しい年寄りの執事が気になっているようだった。しかし、少年は驚きを外に出すほど育ちは悪くないようだ。そもそも、明らかに空腹でふらふらしていたしていたこともあり、目は食事に引き寄せられていた。

 彼は全くワインを飲んだことがないようだったので、僕のお気に入りのシャンパンを一杯あげた。その効果もあってか、彼はぺらぺらと話し始めた。彼の話は非常に洗練されていて、ユーモアのセンスもあるようだ。この年頃の男の子には珍しい。だが、かなり疲れ切っていたようで、すぐに頭が垂れ始め、夕食が終わるころには、目を開けているのがやっとのようだった。僕は彼にもう寝なさいと言った。僕の気遣いに感謝し、彼はベッドに向かった。

 葉巻に火をつけながら、僕はソファに腰を下ろし、妙に興味をそそる、この全ての出来事に思いをめぐらせた。どうしてだかはわからないが、彼の話が本当であるという考えが頭から離れなかった。荒っぽい船乗りの生活に全くもって似付かわしくない、彼のか細い体つきのことも考えた。
 結局、葉巻を吸い終わるころには、僕は少年を家にもう何日か置いてみようと決めていた。服も用意してやり、船乗りとして海に出てしまう前に、もっと彼自身の能力に合った仕事を得られるようにしてやるのだ。心の中でそう決めながら、もう一本葉巻を吸って、一杯ウイスキーと水を飲んだ。そして、収穫後の畑の中を歩き通した、この長い一日の疲れを感じたので、もうベッドに入ることにした。


 次の朝、朝食の席に現れたフランクは元気そうだった、昨夜は青白かった頬がバラ色に変わり、目も生気を取り戻していた。彼は微笑みながら挨拶をして、僕の問いかけに対して、昨夜はぐっすり眠れた、起こされるまで目覚めなかった、今はとても元気だ、と答えた。

 朝食が済むと、食事の中そばで待機していた細身なメイドのエレンが部屋を出て行った。僕は葉巻に火をつけて、少年の方を向いた。

「フランク、ちょっと話したいことがある。まず、君が話してくれたすべてのことを信じようと思う」
「信じてもらえてとても嬉しいです」

 彼は手を握りしめながら声を上げた。僕は続けた。

「まあ、見知らぬ人が何の対価もなく君を引き取り、6ヶ月も世話をしてくれて、突然追い出されたなんて、変な話だとは思うけどね」
「とても奇妙でした。でもお話した通りなんです」と彼は言い、少し間を開けた後、わずかに顔を赤らめて続けた。
「ただ、今ならなぜあの人たちが私を引き取ったのか、分かります」

 彼の最後の言葉は、その時はそこまで気に留めなかったが、後になって思い出すことになる。

「僕はね、君に興味があるんだ。それに君が船乗りに向いているとも思えない。だから、もう何日かここにいないか? ちょうどいい服を仕立ててあげよう。それで、何か海以外でいい仕事を紹介してあげられるかもしれない」

 彼は僕の言った言葉の意味が理解できないかのように、しばらく僕を見つめた後、喜びが顔にあふれ、目を潤ませた。

「そんな!」彼は叫んだ。「そんなに私に親切にしてくださって。感謝しきれません。ここにいられるのなら、本当にありがたいです。船乗りになんてなりたくないんです。ろくでもないアイディアだと思います。でも追い出された後、あの人たちからできるだけ遠く離れることしか頭になくて。だから船乗りになろうと思ったんです。この酷い生活から抜け出せるチャンスをもらえるなんて、本当にありがとうございます! どんなことでもします。常にお供します。1人も友達がいないので、孤独だったんです」

 彼はすすり泣きながら話した。涙が目から流れ出て、頬を伝った。僕はもともと同情しやすい性格でもあり、ずっとこの可哀そうな子が気になってはいたが、今はもう心から同情していた。
 当分はここに居させてやろう。自分が家にいる時は、多少は一緒に楽しめるだろう。しばらくしたら学校に通わせようか。彼の将来について考えてやるんだ。それがいい。金には困っていないし、異議を唱えるやつも、邪魔するやつもいない。

「そうだ、フランク。もしよければ、ずっとここにいればいい」

 彼の顔は喜びで輝いた。私の元へ駆け寄って、手を取り感謝の口づけをし、何度も何度もお礼を言った。あまりにもおおっぴろげに感謝するものだから、僕はついに恥ずかしくなって、彼にまずは座れと言わざるを得なかった。

 心が決まったので、すぐに準備に取り掛かった。ベルを鳴らしてメイドを呼び、ウィルソンを寄越すよう伝えた。彼が現れると、このフランシス君がこの家にしばらく滞在するつもりだということを伝えた。そして、馬車を準備して、ここから一番近い町であるウィンチェスターに行き、服を一式仕立てて、下着とシャツと靴と、そのほか若い紳士に必要な装い全てを購入してくるよう言った。僕の優秀な使用人は、何も言わずに深々と頭を下げ、部屋を出て行った。

 しばらくして、彼は馬車が外に準備できたことを伝えるために戻ってきた。僕はウィルソンに入り用なお金を渡し、フランクを任せると、2人は出ていった。
 彼らがいなくなると、すぐに僕は銃を取り出し、猟犬を連れに犬小屋へ寄り、鳥撃ちに出かけた。首尾は上々だったものだから、なかなか帰るタイミングがなく、やっと帰宅した時は、夕食前にぎりぎり着替えはできるくらいの時刻だった。

 食堂に行くと美しく着こなしたフランクが待っていた。しっかりブラシをかけた上着にきれいなシャツを着て、大きな丸襟にはきちんとしたネクタイ、足には一流の革靴。小さな足だなと、改めて思った。

 夕食中は意気揚々として、子供らしく、新しい服とウィルソンに買ってもらったその他あれこれに大喜びだった。買い物のことや、菓子店での軽食などを話した。総じて、ウィンチェスターでの一日には大満足のようだったし、僕への感謝も忘れなった。

 食事の後は、お互い対等に戦えそうだったチェッカーで遊び、10時にはベッドに入るように言った。

こちらもどうぞ

目次