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韓流歴史モノ尻叩きの刑 ~コンジャンを巡る旅~
韓流歴史ドラマでお馴染み、十字にうつ伏せで磔にして、特大パドルで餅つきをする、ド派手なビジュアルの「尻叩きの刑」、コンジャン 곤장(gonjang)。今回は『欽恤典則』『朝鮮王朝実録』『朝鮮幽囚記』などの幾つかの実資料から、朝鮮の尻叩きの刑の歴史を深掘りしてみます。
海外カテだけど、歴史なので私が入りますね。なんか吉川さん、コーヒーブレイクだって言って3時間くらい帰ってこないし
『春香秘伝』の尻叩き
韓国歴史作品には色々な名スパンキングシーンがあると思います。でも、管理人的には断トツ一位の作品がこちら。
『春香秘伝 The Servant』(2010 原題 방자전 /房子伝)
春香伝という、チュニャン(春香)という娘を主人公にした朝鮮に伝わる物語を、大胆にアレンジして映画化した作品です。
『春香秘伝』(2010)より
このスパシーンはあまり類を見ない特殊な設定で、前に立っている役人のあんちゃんと、台に縛られているチュニャンが口裏合わせて演技し、出世のために美談を生み出して中央政権に売り込みをする、
「狂言の尻叩きの刑」
です。そんな、体張りすぎでしょうハルカちゃん。
スパンキーをヒロインを務める女優さんは、先日外国映画として初のアカデミー賞を得た『パラサイト 半地下の家族』でもパク家の美人妻を演じたチョ・ヨジョン女史。
『春香秘伝』のクランクアップが2010年1月10日ということで、当時まだ28歳の彼女の、お仕置き杖を弾力で跳ね返すほどの、みずみずしいお尻を堪能することができます。
みずみずしいってか、物理的に濡れているじゃないですか
それこそ、対女性尻叩き用手法「ムルボルギ」。後で説明入れます。この濡れ濡れも、当スパシーンの目玉でもあります。
下着がふんどしのため、この段階でも布が張り付いて、既にお尻が見えているに等しいですが、この『春香秘伝』は、さらにベッドシーンも複数あり、生尻も、というか全裸も普通に拝むことができます。
それに加えて、このスパシーンのちょっと前。彼女は、また別の「アホ面だけど中身はそれ以上な役人(春香ちゃん談)」に捕まります。そして「お前、Mだから叩かれると嬉しいって聞いたぞ?」と縛られて正座している状態で(ご厚意で)お尻を何度もベシベシ叩かれる謎サービスシーンもあります。
その叩き方が、見ていても全くそそられないので、やっぱり彼はアホ役人なんでしょう。官吏登用試験に尻の叩き方を入れた方がいいですよ。
っていうかまずね、「わたしMなんです~」とかいう女は、基本ビジネスMだから、あんたたち勘違いするんじゃないの
とりあえず『春香秘伝』についてはこのくらいで。
さて、この『春香秘伝』の尻叩きの刑、これが通称「コンジャン」です。通称です。歴史的に正確な用語としては、いくつかの点で(道具とか)コンジャンではないです。笞刑としている韓国サイトもありました。しかし、基本「コンジャン」と言っても通用するでしょう。
では、コンジャンとはなんなのでしょう。
コンジャン誕生
とりあえず、곤장(gonjang)という韓単語のカタカナ表記は、コンジャンとしておきます。
コンジャンは漢表記で棍杖であり、大きな木製パドル状の道具を指す単語です。そこから派生して、コンジャンを使用した刑罰自体も指すようになります。
このあたりの話をしようとすると古代中国で定められ、日本も取り入れた五刑(韓国語ではオヒョン)というシステムが出てきます。笞刑・杖刑・徒刑・流刑・死刑というやつです。
日本史の教科書や資料集なんかに「笞刑:細い棒で尻を50回叩く」「杖刑:太い棒で尻を100回叩く」みたいに書いてあったりしますね
この五刑コンセプトはベースの考え方として重要です。
朝鮮の刑罰も、同様の影響を受けてはいますが、コンジャン自体は法典『續大典』(1746)によって登場した朝鮮オリジナルの刑罰です。そもそも18世紀ですし、李氏朝鮮でもだいぶ最近の方に入ります。(あくまでもコンジャンという刑が制定された時についてで、それ以前にも同様の刑があったかもしれませんが)
『續大典』には笞・杖・棍といった道具が出てきており、それぞれ笞刑・杖刑・棍杖刑といった罰が規定されています。
笞刑 → 杖刑 → 棍刑 の順に厳しくなります。
漢表記 | ハングル | 道具 | 内容 |
---|---|---|---|
笞刑 テヒョン | 태형 | 笞 テ | 細い木の棒で尻を10-50回叩く(五刑同様) |
杖刑 チャンヒョン | 장형 | 杖 チャン | 太い木の棒で尻を60-100回叩く(五刑同様) |
棍刑 コンヒョン | 곤형 | 棍杖 コンジャン | 棍杖で尻を叩く |
適当な時代考証の歴史ドラマのせいで、杖刑とコンジャンの区別がごっちゃになっている、という韓国の方の指摘もしばしば見受けられます。一方で、当時から杖刑とコンジャンの区別は適当だった話もあります。まあ、ドラマなんてエンタメなんで、実際の歴史事実とは大きく異なることも多いでしょう。
コンジャンの種別
コンジャンに使用される道具は主に以下の通りです。(小さい順)
- ソゴン (소곤、小棍)
- チュンゴン(중곤、中棍)
- テゴン(대곤、大棍)
- チュンゴン(중곤、重棍)
- チドゴン(치도곤、治盜棍)
『欽恤典則(흠휼전칙)』(1778)より
漢字なのでなんとなく読めますね。
『欽恤典則』は、22代朝鮮国王・正祖の命で、『續大典』に書かれたコンジャンを含む刑罰の道具・システムを整理して制定したものです
上図を見ればわかりますが、基本的にはどれも同じパドル状でサイズが違うだけです。また、韓国歴史ドラマで見ることが多いのも、この形状かと思います。どれも柳で作られます。人サイズくらいあって名前も強そうなチドゴン(治盜棍)は、盗賊を治める棍、という意味ですね。
笞や杖なんかは、どちらも(法律上は)直径1cm未満の細い鞭です。それと比べるとコンジャンは桁違いに大きいです。
『欽恤典則(흠휼전칙)』(1778)より
管理人は実物を見たことはないので、想像の話で申し訳ないのですが……
よく韓ドラの解説などでも「最悪の場合死ぬことも」などと書かれていますが、大きさというか、どちらかというと重さによる威力が大きいと思われます。叩く方も大変だ。
いや、尻とかじゃなくて、もう骨盤やるだろ!
管理人はずっと疑問に思っているのですが、韓流、華流の尻叩きの刑は、杖刑は出てきても笞刑は出てこない。なんでだ。
まあ、杖刑の方が見た目派手ですからね
フィクションと実際
先ほど書いたように、このコンジャンに関する記述が公式なルールで初めて現れるのは1746年。そして李氏朝鮮の500年物歴史を書き記した『朝鮮王朝実録』において、コンジャンを使った尻叩きが初めて記録されているのが1599年。日本では関ヶ原の戦いくらいですね。
なんで年代を出したかと言うと…… このコンジャンは李氏朝鮮中期に現れたものだということです。
例えば朝鮮時代よりも遥か昔。
古代・高句麗時代を舞台にした『鉄の王 キム・スロ』でも、パドル型コンジャンでの十字縛り付け尻叩きシーンがありますが、時代的なことを考えるとちょっと無茶。
日本では卑弥呼もまだいない時代です
また、祝!コンジャン初オフィシャルルール化の『續大典』においては、コンジャン使用対象は兵士などの軍関係の刑罰に限られていました。(後に対象は重罪の一般人にも広がります)女官とかを仕置きするものではない。
まあ、作品としては派手なのでそれで全然いいと思います。
結局、ルールは所詮紙上の物。コンプラなんて概念さえ存在しない歴史の世界。特に中央政府の目が届かない地方では、法律上の刑罰として犯罪者に執行されているものではない、拷問や私刑が乱用されたことでしょう。
「結婚しないから」という理由で尻叩きの刑に処される『100日の郎君様』のホンシムみたいに
規定された刑罰ではないなら、その時点で言葉の定義も何もないです。こうして、コンジャンの指し示す意味が曖昧になっていきます。
女性に対する尻叩きの刑
受罰者が男性の場合は、基本的に生尻となります。
以上。終わり。
では女性の場合。
宋以前の古代中国では基本的に男女問わず服を脱がせて叩き刑を行っていました。しかし、フビライさんでお馴染みの元の時代に「單衣決罰」という下着を一枚着けた状態での罰が現れます。明の時代に大明律によって「姦通罪」(要するに不倫)を除いて女性は下着を一枚着けた状態での罰が明文化されました。李氏朝鮮も大明律を導入していた都合、その制度が入っていくこととなります。
下図はコンジャンではなく上で一瞬だけ触れた笞刑ですが、着物はまくられつつも、肌着一枚残されているのが分かります。
『刑政圖帖(형정도첩)』より
『刑政圖帖』は今の漢字に直すと「刑政図帳」ですね。これ自体は当時ではなく19世紀になってから描かれた昔の刑罰のイラスト集です
上でも紹介した『朝鮮王朝実録』には、こんな話が記録されています。
1501年、燕山君の時代、3人の妓生(おかかえ遊女)が酒宴で国王の期限を損ね杖刑を受けることに。その一人、耐寒梅は役人に賄賂を与え、服の下に毛皮を入れます。しかし、結局企みはバレ、さらに厳しい罰を与えられたとされます。
ああ、つまり彼女は、少なくともお尻を剥き出しにされないことを知っていて、チートしようとしたということですね…… おばかだ!
ちなみに、燕山君(ヨンサングン)は朝鮮史上最大の暴君で、3000人の妓生を囲い、化粧をしていなかったり、衣服が汚れていただけでも杖刑に処していたと言われます。残虐エピには事欠かない。
この燕山君でおススメの映画が『背徳の王宮』(2015年、R18)です。タイトル、AVかな?
コンジャンはなく、スパンキングシーンも、雑巾掛け中のお尻をびしっと叩く1シーンですが、それ抜きでも面白いです。(ちょい残虐シリアス注意)
なにより、妓生たちをずらっとベンドオーバーで尻を突き出させ、燕山君の張方を一人ずつ突っ込んで格付けのハンコを尻っぺたにベチベチ押していくシーンはマジでよい。
『背徳の王宮』(2015年)
なにが「マジでよい」なの。さっさと話戻しなさい
濡れ尻 VS 生尻
さて、肌着着用の上で刑の実施するとなると、お尻の現在の状況が確認できないですし、叩く位置も定かじゃなくなります。
ここで出てくるのがムルボルギ(물볼기)、すなわち「濡れ尻」。下着に水をばしゃっとかけて、ぺったりお尻に生地を張り付けてから叩くものです。最初に紹介した『春香秘伝』でもやっていますね。
長崎の出島に向かう際に難破し、朝鮮に漂流したオランダ人ヘンドリック・ハメルも、著書『朝鮮幽囚記』で当時の罰の様子をこう記しています。
尻を叩くのは次のようにします。彼らにズボンを下げさせて地面に平伏させるか、または台に縛りつけます。婦人は恥ずかしくないように下着を一枚だけつけさせますが、叩きよいようにまずそれを濡らします。そして長さ四、五フィートの一方は丸く、一方は掌ぐらいの幅で、小指ほどの熱さの棒で叩きます。
『朝鮮幽囚記』ヘンドリック・ハメル(生田滋訳)
そういえば、不倫は女性でもお尻丸出しという話でしたね
朝鮮の歴史書『増補文献備考』によると、姦通罪は男女2人とも尻を剥き出しの上、杖80回の刑。女性に関しては、もし既婚者であれば10回追加で90回の刑と規定されています。鍾路の広場での公開刑罰となります。
また、前述の『朝鮮幽囚記』でハメルは、以下のように記しています。
既婚の婦人と姦通したり、あるいは駆落ちした者は、奴等を辱めるために、両者を裸にし、時には薄い下着だけを身につけさせて顔に石灰を塗り、両者の耳を弓をでつなぎ、小さなどらを背中に縛り付けて、それを叩きながら彼等が姦通者であるということを大声でふれながら町中を引き廻し、その後で尻を五、六十回叩いて罰します。
『朝鮮幽囚記』ヘンドリック・ハメル(生田滋訳)
そんな複雑な刑罰を定めた法律があるかっ!
こちらも私刑でしょう。もしくは、ちょっとハメル君が本にするうえで色々盛っちゃったか。
あれ、かえで? ここにいた
あ! ちょっと吉川さん! 私一人に押し付けてどこ行ってたんですか
いやどこって、会議でしょ。かえでこそサボってなにしてたの
え!? あ、忘れてた
ちょっと和泉さん、なにしてんの! お仕置き決定ね
まあここは、かえでさん。素っ裸になって背中に銅鑼を縛り付けて練り歩けば、まあ反省の気持ちは示せるのでは
私、ドラ叩く役やりたい!!!
石灰を買う予算はないから、顔に塗るのは小麦粉にしてちょうだいね
はめやがったなこいつら……