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【SM業界の舞台裏】BDSMライツフラッグとは? お仕置き好きの同志の証

BDSMライツフラッグ

1990年代、SM好きであることが(たとえ米国であれ)嫌悪を引き起こしかねない中、バニラ勢に不快感を与えないデザインで、自分たちの性癖へのプライドと同志との連帯のシンボルを作った結果である「レザープライドフラッグ」及び「BDSMライツフラッグ」についてお話ししていきます。まさに、かつてのネット勃興期におけるBDSMコミュニティが辿り着いた結論です。

BDSM担当の源です。どんな性癖にも悩みがあるのです。ただ、今であれば、コミュニティの「楽しみ」くらいのノリでいいかもですね。時代はちょっとずつ変わっています

吉川

海外担当の吉川です。権利主張というのは、実際にするしないは置いておいて、そのスキル自体が必要なときはありますしね。参考になるかも

目次

レザープライドフラッグ と BDSM ライツフラッグ

この記事には、2つの似たような旗が登場します。「レザープライドフラッグ」と「BDSM ライツフラッグ」です。先にまとめます。

Leather Pride FlagBDSM Rights Flag
Leather Pride FlagBDSM Rights Flag
1989年公開1995年公開
Tony DeBlaseQuagmyr

※表中の名前は制作の代表者(コミュニティのリーダー)

吉川

「ライツフラッグ」は「権利旗」ですね

濃い青と白黒の線にハートマークが入った、「レザープライドフラッグ」は1989年にトーニー・デブレイス氏によってデザインされた、レザーフェチ、及びそこから派生したBDSM愛好家のシンボルです。思いのほか歴史がありますね。

レザープライドフラッグの誕生!

Leather Pride Flag

『ダンジョンマスター』『ドラマー』と言ったSM雑誌を主宰し、レザーフェチミュージアムまで作ってしまった、著名なBDSMerのトニー・デブレイス(1942-2000)氏は、1989年の「国際ミスターレザーコンテスト (International Mr. Leather)」の会合で、レザーフェチのシンボルとして、このレザープライドフラッグを提案しました。

吉川

ちなみに、上記IML公式サイトに毎年の「ミスターレザー」受賞者の、写真が載っています

みんなイケイケなのです

旗のデザインについて、デブレイス氏は以下のように語っています。

旗は9つの幅が等しい水平線によって構成されています。上からと下から、交互に黒とロイヤルブルーの縞となっており、真ん中の線は白色です。左上の四分の一には赤く大きなハートがあります。この色とシンボルをどう解釈するかは、見る人に委ねようと思います。

The flag is composed of nine horizontal stripes of equal width. From the top and from the bottom, the stripes alternate black and royal blue. The central stripe is white. In the upper left quadrant of the flag is a large red heart. I will leave it to the viewer to interpret the colors and symbols.

The Leather Pride Flag – Leather Archives & Museum レザーアーカイブス&ミュージアム

デブレイス氏がこの旗を発表して以来、この旗は様々なコミュニティやイベントで使用されていきます。

元々はレザーフェチのシンボルとして使われていたこの旗ですが、知名度が広まるにつれ、発案者の出身畑であり、革と関わりが深いBDSMコミュニティでも広く使われ始めました。

Leather Pride Flag in San Francisco

Wikimedia (CC BY-SA 4.0)

サンフランシスコのレザーヒストリー通りに描かれた「レザープライドフラッグ」です。こんな、多少なりともセクシャルな意図をもつシンボルを路上に書いちゃう当たり、流石ですね。

しかし、ここで議論はさらに進んでいくことになります。レザープライドフラッグは、その名の通りレザーフェチ、またはそれに関わるゲイやレズビアンコミュニティの象徴という側面が強いものでした。「レザー」という言葉で、全ての性的指向/性的嗜好を表すのは無理がある。そこで、もっとピンポイントの、自分たちを象徴する意匠が欲しいと思い始めた人々がいました。

それが、BDSM民です。

吉川

人間は、常に自らのアイデンティティを求めるものなのです

BDSM民、自らのシンボルを求めて、動く

前述したように、レザーフェチから派生してBDSMでも使われるようになった一方で、BDSMの人間としての権利を主張するようなデザインがあったらよい、という需要が現れました。理由としては……

  • BDSM勢はレザーフェチ勢と必ずしも同一のカルチャーを持つわけではない
  • レザープライドフラッグは知名度があり、公共の場で付けているとバレる可能性がある
  • レザープライドフラッグは企業が権利を保有していて使いにくい
  • デザインが気に入らない

ちなみに、我々スパンコ勢も、我々はBDSM勢とは違うカルチャーを……うんぬん

吉川

人間は、常に自らのアイデンティティを(以下略)

最後の「気に入らない」という意見は、ただの好き嫌いのようにも見えますが、実際のところ、トニー・デブレイスの身内のコミュニティメンバーからも結構反対があった(特にハートが陳腐)ようです。しかし、デブレイス氏が独断で押し切ったとのこと。また、著作権は彼の会社が著作権を持ち、商業利用の際は金は取らないものの、申請が必要。

そういう意味でも、これを「我々のプライド」とするのに違和感を持った人もいたでしょう。

吉川

ハートがダサい、ちょい分かる。レザー関係ないし

そういったことを背景に、ハートに代わるBDSMの象徴として、 Quagmyr氏のコミュニティによって考案されていたエンブレムを同様のデザインの旗に組み合わせたものが誕生しました。それが、「BDSMライツフラッグ」です。

では、ハートに代わるエンブレムとはどんなものだったのでしょうか?

BDSMblemとは一体何なのか

BDSM Rights Flag

ところで、このBDSMライツフラッグの真ん中の三つ巴の勾玉は何でしょうか。完全に和太鼓みたいになっちゃってます。このマークを「BDSMエンブレム」と言います。

なんか、じわじわくるデザインですね

いや、ちょっと嘘を言いました。正確に言うと

BDSMblem
ビーディーエスエムブレム

といいます。

ネーミングセンス……

Quagmyr氏によると、この1990年代の半ば、このエンブレムを制作するようになったきっかけは、「BDSMが白い目で見られ、しばし迫害的な扱いをされることもある中、公に」

こちらがBDSMblemの本家ページ(英語)です。参考程度に貼っておきます。内容をこの後にまとめます。

BDSMblemの解説

公式?サイト

エムブレムホームページ Emblem Home Page (sagcs.net)

BDSMblem の意匠について

『O嬢の物語』からアイディアを得る

作者Quagmyr氏によると、もともとこのシンボルはフランスの作家ドミニク・オーリーによる官能小説『O嬢の物語』に出てくるロワシーの指輪にインスパイアされたもののようです。

『O嬢の物語』(1954)はフランスの有名なBDSM小説で、映画化もしていますね

こんなシンボルです。

O嬢の物語の指輪

『O嬢の物語』の指輪のデザイン

Wikimedia (CC BY-SA 3.0)

これをそのまま使うと怒られてしまうのではないか、と考えたQuagmyr氏はこのマークにアレンジを加え、結果的に陰陽スタイルになりました。

BDSMと3という数字

さて、文様が三つ巴を採用している点について、Quagmyr氏は丁寧に解説をしています。

3つに分かれているのは、BDSMの様々な3要素を表すためです。まず初めにBDSMそのものの3要素、すなわち、B&D、D&S、S&Mです。2番目に、BDSMの3つの信条である、安全、分別、同意です。最後に、私たちのコミュニティの3分類、トップ、ボトム、そしてスイッチです。

The three divisions represent the various threesomes of BDSM. First of all, the three divisions of BDSM itself: B&D, D&S, and S&M. Secondly, the three-way creed of BDSM behavior: Safe, Sane, and Consensual. Thirdly, the three divisions of our community: Tops, Bottoms, and Switches.

http://emblemproject.sagcs.net/meaning.html
  • B&D、D&S、S&M
  • 安全、分別、同意
  • トップ、ボトム、スイッチ

3要素を3種類出してきましたね、やるな

B&D、D&S、S&M ? トップ、ボトム、スイッチ? よくわからんっていう方は下記ページで説明していますので、ご参照下さい。特に、日本では「SM=サゾマゾ」という片手落ちの捉えられ方をされたりすることが多いのですが、2要素ではなく、3要素です。

ちなみに、Quagmyr氏曰く、この明確に3等分された円ではなく三つ巴という曖昧な境界を持っているのは、B&D、D&S、S&M の文字の繋がりを象徴しているとのこと。

吉川

上手いこと言うなあ

しかし、

なんでしょう、このBDSMblemが陰陽太極図かつ三つ巴なせいで、頭の中でBDSMと全くもって結びつけられないのは、自分がアジア文化圏にいるからなのでしょうか。


管理人がニューヨークのセックス博物館に行った時の、SM展示品現地レポはこちら。

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