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何故「びっくりするほどユートピア!」は尻を叩くのか? お尻ペンペンと民間信仰【セルフスパンキング】
「お尻ペンペン」という言葉は、お仕置き以外に、相手をバカにする時にも使います。この挑発、アニメ、マンガ、ゲームなど様々な場面で使われる、分かりやすくちょっと下品でかわいいムーブです。
お尻を露出したりフリフリするくらいが多い海外のムーニングと違って、妙に日本らしさを醸し出す所作でもあります。そんなセルフお尻ペンペンの原点と意味を考えてみましょう。
(ムーニングは叩いても強い1発で終わることも多いが、お尻ペンペンは基本2発以上になる。そりゃそうか)
どうも、和泉です
ねえみんな、『リーガル・ハイ』ってドラマあったでしょ。あれでほら、新垣●衣が暴漢に向かってお尻ペンペンして挑発するシーンがあったわけですよ
『リーガル・ハイ』がお蔵入った時、同時に「ガッキーのセルフお尻ペンペン」という国宝シーンも同時にこの世から公式には抹消されたわけで、あれは日本史に残る大惨事だった……
昔話「鬼の子小綱」のセルフ尻叩き
さて、セルフおしりペンペンは、日本の昔話にも出てきます。「鬼の子小綱」です。ご存じの人はいますでしょうか。管理人の子供の頃行っていた病院の絵本にこの「鬼の子小綱」の絵本があり、よく覚えています。
「鬼の子小綱」の小綱は、鬼にさらわれた娘と鬼の間にできたハーフの子です。民俗学者の関敬吾 (1899 – 1990) によって『日本昔話大成』のなかで「鬼の子小綱」という話型として分類されているのです。
話型っていうのは、つまり昔話の型ですね。地方によって色々バリエーションがあるけど大体こんな感じの昔話があるよってこと
いくつかのバリエーションを紹介しますね。
『おにの子こづな』(岩崎書店,1993)
3種類ほどの絵本を確認しましたが、管理人が子供の頃読んだ、姉妹がそろって鬼にペンペンしている絵の絵本は見つからなかった…… 無念……
鬼に向かって尻を叩く理由を考える民俗学者たち
民俗学者の五來重 (1908-1993) は以下のように、昔話の中の尻を叩く行為に注目しています。
間一髪、鬼の水飲みで捕えられようとする三人を救ったのはヘラまたは杓子であった、これは、鬼の妻が尻をまくってヘラで叩いたので、鬼が笑ったために水を吐き出してしまった、といったり、母の尻を鬼の子小綱が朱塗りの箆(ヘラ)で叩いたとか、小綱自身が尻をまくって叩いたとか、とにかくこれは尻に関係がある。それでこのヘラまたは杓子はなんであるかということになるが、従来はこれを分析した説を見たことがない。
『鬼むかし』(五來重、角川選書、1991)
つまり、お尻をヘラや杓子で叩いていることがカギになると?
五來重の考えでは、この昔話は寄合のギャグ話レパートリーとして語られていたものであり、昔トイレットペーパー代わりに使われていた竹べらで尻を叩くことで、下ネタ的な要素を入れていたのではないかということ。お子様は大好きですから。
やだあ! 竹なんかでお尻拭きたくない!
一方で五來は、杓子が持つ、より明確な「魔よけ」の意味を指摘しています。弥生時代から日本人と生活を共にしてきた杓子は「宮島のしゃもじ」の例を挙げるまでもなく、縁起物、お守り、悪霊退散の民間信仰を得ているのです。
柳田国男翁は『石神問答』で、御左口神あるいはオシャモジ様は、サイの神とおなじでダイノコンゴウまたは粥杖であらわされ、女性の尻を打つ咒具だ、と言っている。これもシャモジで尻を打つモチーフの基になるかもしれない。
『鬼むかし』(五來重、角川選書、1991)
※咒具(じゅぐ) = 呪具
民俗学者の柳田国男は、「しゃもじ」を「粥杖」つまり、例の平安時代からある女性のお尻を叩く儀式の尻叩き道具から派生しているのではないかと考えているのです。
これはちょっとエキサイティングです。鬼にお尻ペンペンするギャグ話が、民間信仰に深くつながってきている。
しゃもじと粥杖って、お米繋がりなのかな? やっぱ日本人はお米がないとね。粥杖の尻叩きは、またちょっと下で触れるよ
海外版杓子、木製スプーンのスパンキングについてはこちらをどうぞ。
一方で、東洋英和女学院大学教授の古川のり子氏は「鬼の子小綱」でのセルフお尻ペンペンについて別観点で考察をしています。
多くの類話では「尻を出して」と表現されているが、福島県の例で「ぼぼ(女性器)」とはっきり語られるように、本来、女性器を露呈してみせるものであったと思われる。鬼の住む異世界から脱出する道が閉ざされようとしたとき、女性器をむき出しにして鬼を大笑いさせることが、生への世界への道を開いた。女性器と笑いは、人間が生きていくために重要な力を発揮すると考えられているようだ。
『昔話の謎 あの世とこの世の神話学』(古川のり子、角川ソフィア文庫、2016)
お、お尻が、まん●の代用だと……?
……でも、みんな。女性器を尻に置き換えてペンペンする他の例、他にもあったよね?
そう「嫁の尻叩き」。
尻叩きは「性」と「生」の象徴である
「嫁の尻叩き」とはご存じ、国語辞典で「尻叩き」で引いても出てくる、子宝祈願のアレですね。
さっきも上でちょっと触れたけど、清少納言の『枕草子』にも出てくる、平安時代からある、粥杖での由緒あるケツバットだ!
女性のお尻を棒で叩くことにどんな意味があるのか。
まあ、詳しく説明するほどでもないですが、
- 棒は男性器の象徴
- 尻は女性器の代用
- ペンペンすることはパンパンすることの疑似行為
であります。これにより、日本人は古くから子供を授かる祈願をしてました。尻を棒で叩くことは疑似的な性行為であるわけです。
縄文時代の土偶も、ぼんきゅっぼんって形でお尻が強調されているけど、あれも子宝祈願だったよね
「安産型」なんて言ったりするけど、お尻が子作りに大事な意味を持っていたことがわかる!
柳田国男は、宮城から長崎まで日本縦断してこの「尻叩き」文化を採集しています。つまり、この「尻叩き」行事にも、日本全国で一定の普遍性があるわけです。
世を生と死、陰と陽に分けた時、子供を産むことはポジティブな生の力を持っています。尻を叩くことでセックスを模し、それにより「性の力」が「生の力」と変わり、魔よけの力を帯びるわけです。
ここに来て、スパンキングが対デーモン特殊魔法としての意味を持ってくるのです。
なるほど、お尻ペンペンは生の力……
でも、ちょっとまって。上の「鬼の子小綱」では、セルフお尻ペンペンが鬼にダメージを与えるというより、爆笑を引き起こして勝利しているよね
そう、そこで現れるのは、お尻ペンペンの2つ目の特性、笑いなのです。
裸で踊られたら、鬼も神様も爆笑する我が国
笑いというのは、これもやはり明るい生の力を持っています。どう考えてもネガティブではない。これ自体は異論はないでしょう。そして、女性の裸がこの笑いと組み合わされ明確な生のエネルギーをもたらした事例がありますね。
そう、これも私たちは知っている
日本神話にある「アマノウズメの裸踊り」です。
古事記や日本書紀にも登場するこの通称「天の岩戸」のお話。ご存じかと思いますが、念のため成り行きをおさらいしましょう。
スサノオの度重なる乱暴に怒ったアマテラスオオミカミは、天の岩戸に引きこもる。そして太陽の神様がヒキニート化した高天原は闇に包まれ、死の国になってしまう。
焦った八百万の神様たちはアマテラスを引きずり出すために、岩戸の前で儀式……というか祭りを行うことに。芸能の神様であるアマノウズメはストリップダンスを披露、八百万のおじさんたちは大爆笑。
アマテラスが何事かと気になって岩戸を開けた瞬間、待ち構えていたアメノタヂカラオノカミ(天手力男神)という名前からしてガチムチの神がアマテラスを引きずり出す。
こうして高天原には光が戻り、死の国から生の国へと蘇ったのだった。
一方的に不貞腐れて皆に迷惑をかけたがきんちょアマテラスが、アメノタヂカラオにお仕置きされているイラストを、誰か。
誰が描くのよ!
さて、ここでも裸体が生の力をもたらしている
全裸すっぽんぽん → 笑い → 生の力(闇を払う力)
お固い人々は「裸なんて下品だ」などと言って非難するかもしれません。
が、これは人間の本質的なものです。日本だけじゃないです。ギリシャ神話の女性バウボは落ち込んでいる女神に女性器を見せて笑わせて立ち直らせるし、紳士の国イギリスの人たちは、とにかく明るい安村が履いていることに安心して笑うのです。
鬱々とした精神状態が医学ではなく妖魔の仕業と考えられていた時代、エロは人間の生きる力をよみがえらせる源だったわけですね。
超健全や。
「びっくりするほどユートピア!」と尻叩きの退魔の力
さて、話は変わります。
「びっくりするほどユートピア!」と呼ばれる2ch発祥の有名な除霊方法があります。手順は以下の通り。
2002年に2chの独身男性板に爆誕したこの奇怪な行為は、2005年にオカルト超常現象板でAA化され「除霊能力」を得ることになります。
こんなの10分もされたら、脱力感はもちろん、霊も即逃げるわ
オカルト板で市民権を得たこの「びっくりするほどユートピア!」は、スレや動画などでの怖い時のおまじないコメとして使われたり、何故か欅坂、乃木坂に実践されたりして、2chが生み出した著名ミームのひとつとしての地位を不動のものとしました。
で、なんで急にこれを取り上げられたかと言うと、この「びっくりするほどユートピア!」、これまで上げた二つの生の力の要素を含んでいますよね。
- 尻を叩くこと(陰部、生殖行為を模した生の力)
- 全裸である(エロから笑いに繋がる生の力)
上記を考えると、自らの尻を剥き出しにして叩き鬼から逃れた物語や、裸で踊り、世界に光を取り戻したアマノウズメ同様、「びっくりするほどユートピア!」にも、邪気を取り払う手段として、何かしらの効果がありそうじゃないですか。
ねーよ! って言いたいところだけど、
まあ、こういうオカルトも精神状態からくるのも多いでしょう。くだらないことや、がっつりした運動が何かを変えることもあるかも
病は気から!
でも、10分間も自分の尻をペンペンしたら、結構痛いので気を付けよう!
まとめ・お尻ペンペンが開く春への扉
そんなこんなで面白楽しい、そして健康的なエロさも醸し出す、お尻ペンペンの世界。上述の古川のり子教授は、以下のように述べています。
尻をたたいて鬼を笑わせる母、小正月に尻をたたかれる花嫁、女性器を出して笑わせるアマノウズメはこうして深く結びついている。彼女たちの行為は冬の口を緩ませ、豊かな春への道を開いてくれるのである。
『昔話の謎 あの世とこの世の神話学』(古川のり子、角川ソフィア文庫、2016)
さあ、明日もお尻ペンペンをほどよく楽しんで、悪霊を払っていきましょう!